Akiyuki Nosaka

脳梗塞で倒れて以来、久しぶりに野坂昭如さんのお姿を拝見しました。

タイトル。『野荒れ / ノアーレ』。

言葉。野坂昭如さん。

写真。荒木経惟さん。

画。黒田柾太郎さん。

野坂さんが、ぽつりぽつりと小さな言葉をつづります。

ぼくのちんぽ人生は

終わらない

ぼくが女を抱くかぎり

ぼくのちんぽ人生は

終わらない

黒田さんが、回想します。

色々なことがあった。

頭に来たことが一千回。

なるほどと思ったことが一千回。

うそ!と思ったことが一千回。

やっぱりホンマやった。と思ったことが一千百回。

荒木さんがダメだし。

ちがうねー。

立ってられるんならそれやろうかなー。

野坂さんも、荒木さんも、黒田さんも、みな最前線で「戦闘」してる。

あきらめないことって、とても大切なことかもしれない…。

そう気付かせてくれる、「戦闘」のルポルタージュです。

Mira Nair

友人のオススメで久しぶりに映画館に足を運びました。

『その名にちなんで』。

異国に来て子供を育てるのに精一杯の親の世代と、アメリカで育ったアメリカ人でありながらも自分のルーツやアイデンティティを模索しなければならない子供たち。

そんな親子がわかりあえなくなったり、分かりあえたり。

「移民がアメリカで苦労しつつも頑張る系ドラマ」といってしまったらちょっと軽率かもしれませんが、シーンのひとつひとつがジーンとくる映画です。

たとえ移民でなくとも、「自分とは?」という問いにぶつかった方であれば、きっと目頭があつくなるはず。

安易なセンチメンタリズムで終わらないところは、原作や脚本、さらには監督によるストーリー・テリングの骨格がしっかりしているからなのでしょう。

処女作『停電の夜に』でピュリッツアー賞を獲得し、華々しく文壇にデビューしたジュンパ・ラヒリさん(Jhumpa Lahiri)による原作。
そして、デビュー作『サラーム・ボンベイ!』でカンヌ映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)に輝いた元女優の実力派監督、ミーラー・ナーイルさん(Mira Nair)。

もうひとり、ニティン・ソーニーさん(Nitin Sawhney)によるサウンドトラックも秀逸です。

アコースティック・ギターのやさしい調べにシタールやサーランギー、サントゥール、バンスリといったインド古典楽器の伸びやかで艶やかな音色が重なったスコアは、ヒーリング・ミュージック的な心地よさを醸し出しています。

インド音楽というと『ムトゥ 踊るマハラジャ』などのシュールでド派手なイメージが強いかもしれませんが、観る者の心にそっと語りかけてくるようなニティン・ソーニーさんの音楽は、どちらかというと瞑想で心のやすらぎを得るヨガの世界観に近いテイストを持っているように感じられます。

あっ、キャスティングもいいですよ。

ていうか、全部いいです。

そして、思いました。

持つべきものは友人だ、と。

FREITAG

隔月誌『d long life design』、リサイクル・バッグの原点、FREITAG特集!

「ロングライフデザイン」を主軸に毎回ユニークな視点で編纂される同誌にFREITAGが取り上げられることは、ファンのひとりとしてとても嬉しいことです。

FREITAGの創設者、フライターグ兄弟を招き、100人のお客さまとのトークセッション。

行きたかったーっ。

Q.
フライターグ兄弟にとっての「ロングライフデザイン」とは。

A,
自分がいなくなった後の世の中においても社会に貢献し続け、長生きできるようなプロダクトデザインやデザインプロダクト。
自分の存在を超えて、時代や周囲の環境にも十分適応するデザイン、もしくはそのような配慮が行き届いて生み出されたプロダクト。

マーカス・フライターグ

A.
時代を超えて世の中に受け入れられるようなポテンシャルをデザインまたはその形作られたプロダクトの中に見いだすことのできるもの。
同時に素材だけではなく、プロダクトが生み出される背景や過程が一定基準を超えたクオリティの高いもの。

ダニエル・フライターグ

Hiromi Nagasaku

永作博美さん。同性からの支持もあつい女優さん。

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』でブルーリボン賞助演女優賞を獲得したり、『人のセックスを笑うな』の主演でも話題を呼んだり、今後の活躍がますます期待されますね。

巷では、本好き、映画好き、音楽好きの文系女優、または、サバサバして頼りがいのある姉気肌と呼ばれるのもうなずける好感度大、憧れの対象、あるいは共感できるひとりの女性。

そんな永作さんの10年間の想いの断片を集めた初の著作『やうやう』が発刊されました。

ガールズ・フォト、ガールズ・エッセイ、散文詩、思いでの備忘録、いろんな形容ができるユニークな内容です。

なかでも気になった「散文」をひとつ(最近の筆者の想いとちょっと重なるかな…)。

ひとつのことを追求しだすと

きりがなく、そして、

何かが降り掛からない限り

決して終わりは来ない。

だからある時、止める決断を

しなければならないと思った。

ふと、

そんな時もあると思った。

勇気のいることだと思った。

こんなリズムで淡々と永作さんの10年間がつづられてゆきます。

装丁もステキです。有山達也さんのお仕事。

『ku:nel』(マガジンハウス)のアートディレクションを担当されている方です。

藝大を卒業した後、中垣信夫さんの事務所(ということは、杉浦康平さんの系譜ですね)で3年間つとめました。辞める直前に中垣さんから贈られた「直感を大事にしなさい」という言葉が一番印象に残っているそうです。

直感。

永作さんと有山さんが、ひとつの言葉でつながりました。

Bettina von Zwehl

71年、ミュンヘン生まれ。

ロンドン在住の女性写真家、Bettina von Zwehlさんの作品集です。

全ページ、ポートレイトです。

潔いほどに、無駄を排した構図は、「人間の顔の骨格ってこんなだったんだ」とあらためて気付かされます。

大人へと成長するにつれ、微妙に変化する表情・骨格は、「顔」の定点観測。

思えば、中世の修道士を描いた精緻な肖像画にも、こんな横顔の構図が多く見受けられましたね。

写真というものは「サイエンス」であるけれども、ひとつの「美学」であることも、しとやかに教えてくれる極めてすぐれたアーティストさんです。

Olaf Otto Becker

休日に写真集をいろいろと見て廻りました。

気のせいかもしれませんが、「白い風景」の写真集が目につきました。

鈴木理策さんの『熊野、雪、桜』。
鈴木さんの故郷である熊野を題材にした作品集です。純白の雪景色の中に木々がわずかにのぞいています。
まるで自分が雪山の小径を歩いているような錯覚。
手前の大きくぼけた花のすき間にくっきりと桜の遠景が見える、独特のディテールと没入感に、鈴木さん独自の視点が垣間見えます。

もうひとつは、石川直樹さんの『POLAR(ポーラー)』。
2006年に三木淳賞、さがみはら写真新人奨励賞を同時受賞し写真家としての活動が注目される彼が、10年にわたって断続的に旅してきた北極圏。
圧倒的な氷の山脈、最果ての港に営まれる生活、小さな村での動物との暮らし、進む温暖化の現実…。
一般的に抱かれる北極の真っ白な世界のイメージを覆す、ありのままの北極の風景。
そこに住む人々の日々の営みが美しくとらえられています。

そんな中で、私のイチオシは、オラフ・オットー・ベッカーさん(Olaf Otto Becker)の『BROKEN LINE』(Hatje Cantz刊)。
カメラとともに、GPSを携えて、いざ、グリーンランドの地へ。
氷のフィヨルド、破壊された幾何学。
先の日本人写真家の「白」が「軟」とすれば、ベッカーさんのそれは「硬」。
写真の質感そのものが硬質であるだけでなく、氷の大地のなかに、いかに地球の原初というものがかたくなに残されているか、GPSの精緻なデータとともに魂の奥底に冷たく響いてきます。

Antonio Carlos Jobim

アントニオ・カルロス・ジョビンさん(Antonio Carlos Jobim)。

どうして、こんなに大きくて温かいんだろう、とジョビンさんのサウンドを耳にするたびにいつもため息が出てしまいます。

それは恐らく、ジョビンさんの誠実な生き方、人生の分かれ道が来た時の正しい選び方、そして家族や友人への愛が彼の音楽の中心にあるからだと思います。

未発掘音源、あるいは世界初CD化といったコピーがかまびすしい昨今の音楽業界ですが、ジョビンさんだけはやはり特別です。

モントリオール・ジャズフェスティバルでのライブ。
未発掘音源。

世界20ヶ国以上の国から2,000人以上のミュージシャンが集い、モントリオール市内のあちこちでさまざまなショーが開かれる世界最大級のジャズフェスティバルです。

ここで、ジョビンさんは当時、さまざまな世界の音楽人に出会ったはずです。

あちらこちらで自身の音楽に対する称賛の声を受け、充実したモントリオールでの滞在の様子がジャケットに映し出されたジョビンさんの横顔からも伝わってきます。

ジョビンさんの珠玉の名品が、楽しげな演奏とオーディエンスの温かい反応が、とても心地よい時間をつくりだしてくれるライヴアルバムの好盤です。

収録曲:
ワン・ノート・サンバ、おいしい水、想いあふれて、トゥー・カイツ、ウェイヴ、ボルゼギン、愛の語らい、ガブリエラ、フェリシダーヂ、ジェット機のサンバ、三月の雨、イパネマの娘

Al Taylor

極めて多元的で雑多なコンテンポラリー・アートの潮流。

もはや、「芸術」を「具象」と「抽象」といった具合に、分類化(二分化)することは無意味なことかもしれません。

それでもなお、制作の現場で具象に反発した傾向をもった作品、あるい反対に、フランシス・ベーコンさん(Francis Bacon)に代表されるように、抽象に反発しつづけた作家さんもいるわけで、「芸術」の根源には、現状に対する不満あるいは疑問といったものがあるのではないかと思います。

そのような意味で、サイ・トゥオンブリーさん(Cy Twombly)は、ゲージュツ然とした「ペインティング」を、あたかも先祖返りのごとく「ドローイング」に対してあらためて人々の眼を向けさせたという点で、大きな功績を残した作家さんといえるでしょう。

一見、落書きのような作品群ですが、近寄ってみると「ここまで!」と驚くほど緻密な描写がなされています。恐らく、通常のオフセット印刷では再現できないほどの「線」のポイエティーク。

そんなサイ・トゥオンブリーさんと同時代に生きた、もうひとりの「ドローイング」作家さんがいます。

アル・テイラーさん(Al Taylor)がそのひと。夭折の画家。

彫刻のフィールドでも作品を残した方ですが、「面」あるいは「ボリューム」で構成された立体ではなく、あくまで、「線」をエレメントとした彫刻です。

サイ・トゥオンブリーさんの作品は、ときとして挑発的でとげとげしくもありますが、アル・テイラーさんのそれは、やさしい詩のような、穏やかで瞑想的アプローチが光ります。

「ドローイング」と「彫刻」がバランスよく配置された作品集、『Drawings / Zeichnungen』がオススメ。

ちなみに、同作品集の出版社が Hatje Cantz であることも、アル・テイラーさんの作品が鉄板であることを奇しくも証明したかたちとなっています。

Leo Lionni

ちょっと かわった のねずみの はなし

うしが ぶらぶら あるいてる。うまが ぱかぱか はしってる。

そんな まきばに そって、ふるい いしがきが あった。

なやにも サイロにも ほどちかい、その いしがきの なか、

おしゃべり のねずみの いえ。

けれど おひゃくしょうさんが ひっこして しまったので、

なやは かたむき、サイロは からっぽ。そのうえ、ふゆは ちかい。

ちいさな のねずみたちは、とうもろこしと

きのみと こむぎと わらを あつめはじめた。

みんな、ひるも よるも はたらいた。

ただ フレデリックだけは べつ。

「フレデリック、どうして きみは はたらかないの?」みんなは きいた。

「こう みえたって、はたらいてるよ。」と フレデリック。

「さむくて くらい ふゆの ひの ために、

ぼくは おひさまの ひかりを あつめてるんだ。」

そして また、フレデリックが すわりこんで、まきばを じっと みつめて いると、

みんなは きいた。「こんどは なに してるんだい、フレデリック?」

フレデリックは あっさり こたえた。

「いろを あつめてるのさ。ふゆは はいいろだからね。」

また あるひ、フレデリックは、はんぶん ねむってる みたいだった。

「ゆめでも みてるのかい、フレデリック。」

みんなは すこし はらを たてて たずねた。

「ちがうよ、ぼくは ことばを あつめてるんだ。

ふゆは ながいから、はなしの たねも つきて しまうもの。」

『フレデリック』
さく レオ・レオニさん(Leo Lionni)、やく たにかわしゅんたろうさん

いい おはなし ですよ。
きょうみの あるかたは ぜひ つづきを えほんで。

P.S.
谷川俊太郎さんのはしがき。

「翻訳にあたっては、原本のもつ視覚的な美しさを損なわぬことを、まず第一に心がけました。
文章のレイアウトを、できるだけ原本どおりにするために、その内容の一部を省略せざるを得ない場合もありましたが、これは俳句的な凝縮された表現を好む日本人には、かえってふさわしいと考えています。」

言葉の世界だけではない、視覚のポエジーにも目端の利いた谷川俊太郎さんは、やっぱり超一線級です。

ACNE PAPER

いわゆるモード系雑誌とは縁遠い私ですが、これだけは別格です。

スウェーデン発『ACNE PAPER』。

ファッション誌を見ているというよりは、ポートレイトを眺めているような誌面構成は、好感度大です。

1997年にACNEのデザインチームが家族や友人の為に作成した100本のデニムがきっかけで、履き心地の良さ、抜群のシルエット、新しいモード感が瞬く間に口コミで広まり、今ではスウェーデンデニムの代表に。

というわけで、ACNEと聞くと、デニムブランドという印象が強い傾向がありますが、芯の通った雑誌を出してくるあたり、一企業体としての澄んだポリシーが伝わってきて、清々しい気分になります。

モノクロ写真を多用したタブロイド・サイズの『ACNE PAPER』。

まさに、トニック・アンド・クワイエットなオススメ・モード誌です。