Shuji Terayama

『寺山修司から高校生へ – 時速100キロの人生相談』という面白い本を手に入れた。今から数十年前に受験雑誌『高3コース』の誌面を舞台に、当時の現役高校生が質問を投げ、それに受け答えるかけるかたちで寺山さんが毎号登場するというひとつの連載シリーズを一冊の本にまとめたものである。
今となっては、どういう具合にこの本の存在を知ったかなど忘れてしまったけれど、初々しい高校生と絶頂期の寺山さんとがどんな激論をかわしていたのかどうしても知りたくなった。それで、いろんな書店を探し回ったけれども件の本は見当たらず、版元の学研に問い合わせても絶版とのこと。諦めかけていたところに、amazon.co.jpのマーケットプレイスに出品されているのを見つけ喜々として買うことを即決した(実売価格の約4倍だったけれど)。
まだ途中までしか読んでいないけれども、今日帰りの電車の中でこんなやりとりに思わずほくそ笑んでしまった。

高校生からの便り
処女あげます…。だれかもらってくださいナ!こんなもの、大切にとっておいて、いったいどうなるのでしょう。ジャマなものは捨てたほうが気が楽になるんじゃないかしら。

寺山さんの回答
1. いかにくちづけするか。舌の使い方。
2. 下着の美しい脱ぎ方。
3. どのように感情を表現するか、発声練習。
4. きれいにからだを洗うこと。
5. 全部終わったら、お手紙をください。

寺山さん独特の諧謔に満ちた答えに吹き出しそうになった。でも、寺山ダンディズムはこれだけでは終わらないところがまたにくい。
「処女は「ジャマなもの」ではありません。そんなものにこだわっているよりは、早く一人前の女になったほうがいいが、性は楽しむべきものであって、「廃品を捨てる」ように扱うものではありません。」処女を捨てるための「練習」として、上に書いた5ケ条が登場したという次第である。

Peter Granser

ドイツのシュトゥットガルトを拠点に活動している写真家、ピーター・グランサーさん(Peter Granser)の写真集、『CONEY ISLAND』。

かつては、ダイアン・アーバスさん(Diane Arbus)、ウィージーさん(Weegee)、ブルース・ギルデンさん(Bruce Gilden)らも題材としたコニー・アイランド。

コニー・アイランドといえば、戦前に遊園地の王国として栄えた、いわずとしれたニューヨーカーお抱えのビーチリゾート。

ベッヒャー派印象があまりに強いのか、ドイツの写真家といえば、アンダーで硬質な作品を想像しがちですが、ピーター・グランサーさんの写真は、むしろ、アメリカのニューカラーの影響を感じる、色彩豊かで、どこか郷愁感が漂う構成となっています。

夏はこれからですが、もう夏が終わったような、ちょっとメランコリックな気分の写真。

カラリとした作風に好感が持てます。

Stephen Gill

タイトル、『Russian Women Smokers』。

かの有名なベッヒャー夫妻(Becher, Bernd and Hilla)は、給水塔、冷却塔、溶鉱炉、車庫、鉱山の発掘塔などドイツ近代産業の名残が残る、戦前の建築物を被写体にしたタイポロジーを見事に構築しましたが、イギリス・ブリストル生まれの気鋭の若手写真家、スティーブン・ギルさん(Stephen Gill)は、タバコのタイポロジーで魅せます。

セクシャルでデカダンスな重たい空気も、タバコの煙よろしく浮力をもって、ふわっと宙にただよう軽やかさに仕立て上げています。

こういうユーモアとアイロニーの中和作用を学びたいです。

ギルさん自身のウェブサイト、ユニークですよ。

www.stephengill.co.uk

Eddie Cano

小林径さん(ルーティンジャズ系)、須永辰緒さん(夜ジャズ系)など、クラブジャズの原石。

エディ・カノさん(Eddie Cano)の極上ライヴ、『BROUGHT BACK LIVE FROM P.J.’S』 です。

すべての鍵盤からリズムを巻き起こすような弾きっぷりにホレボレしてしまいます。

おいしいフレーズ、かっこいい曲が泉のごとく溢れては流れていく空気とシンクロするかのように、オーディエンスもとてもつなく熱い!

リズムセクションとの連係プレイもまた、猛烈に興奮させてくれます。

ママス&パパス『MONDAY MONDAY』などを素早くカヴァーするセンスもさすがですが、極めつけはやはりオリジナル曲、とりわけ『I CAN’T CRY ANYMORE』、『I’LL NEVER FORGET YOU』といったところでしょうか。

泣かせるメロディ、美しいタッチと力強いリズム。

この日の P.J.’s はフロア中が揺れていたにちがいありません。

P.S.
このライヴが行われた年が、筆者の生まれた年。
エディ・カノさんの命日が筆者の誕生日と同じ。
はたして、輪廻転生はあるのでしょうか?

Yozo Hamaguchi

「ぶどう」と「さくらんぼ」を生涯描き続けた版画家、浜口陽三さん。

先日ご紹介した山田太一さんのインタビューの中で、「多くの人が前向きのよき断念こそが必要ではないでしょうか。」という言葉が印象に残りますが、それを一流の作家さんとして実践したひとりこそ、浜口陽三さんなのではないでしょうか。

「ぶどう」と「さくらんぼ」。

Richard Misrach

世界でもっとも美しい人工物のひとつ、サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジ。

不毛の地だったカリフォルニアとアリゾナの砂漠が文明化したことで環境が激変しているさまざまなシーンをクールかつ美しく被写体に収めた代表作『Desert Cantos』で、写真家としての不動の地位を確立したリチャード・ミズラックさん(Richard Misrach)の『Golden Gate』です。

季節や気候、あるいは時間によってさまざまな表情を見せるゴールデン・ゲート・ブリッジの定点観測。

風景と人工物とのバランス、そのすくいとり方が絶妙です。

ミズラックさんは、90年代後半、この撮影のためにサンフランシスコ湾が見渡せる北カリフォルニアのバークレーヒルズに移り住みました。

なんてステキなランドスケープだろう。

そして、なんてステキな住処だろう。

Bobbi Humphrey

ロルフ・キューンさん(Rolf Kuhn)の『SOLARIUS』を聞いて以来、ジャズとクラリネットの関係って面白いかもって思いつつ、いろいろな音源を探していたところ、ジャズ・ヴォーカルとフルートの達人、ボビー・ハンフリーさん(Bobbi Humphrey)に辿り着いてしまいました。

タイトル『BLACKS and BLUES』。

ジャズ・フュージョン系でありながら、かなりファンクに傾いているノリといえばよいでしょうか。
注目すべきは、BlueNoteからリリースされている点です。

今でこそクラブに近いジャンルの音楽を扱うようになっていますが、当時としてはかなり斬新的だったんじゃないかと思います。
聞き方によっては現在で言うところの、アシッドジャズではないかと…。

M-2 ‘HARLEM RIVER DRIVE’ や M-4 ‘BLACK AND BLUES’ はネタとしてもフロアーで大人気だとか。

ハンフリーさんのフルートはとても気が利いたサウンド。

しかし、彼女のアフロ、すごいことになってますね。

そんなアフロから子供のような可愛らしいヴォーカルが繰り出されるのだから、「外見で判断するな」とはこういうことですね!

Taichi Yamada

脚本家、山田太一さんの発言が各方面で話題になっていますね。

ことの発端は、『日経ビジネスAssocie(2008年2月19日号)』の誌上インタビュー。

薄々感じてはいたけれど、イタイ言葉が連なります。

– –

「あきらめるな」とはよく言います。だから誰でもあきらめさえしなければ夢がかなうような気がしてきますが、そんなことはあまりない。頑張れば何でもできると思うのは幻想だと僕は思う。成功した人にインタビューするからそうなるのであって、失敗者には誰もインタビューしないじゃないですか。

(中略)

僕は一握りの成功者が「頑張れば夢はかなう」と言うのは傲慢と思っています。多くの人が前向きのよき断念こそが必要ではないでしょうか。

– –

成功者にとって傲慢という指摘は、虚をつかれた言葉ですが、それ以上に、失敗者(筆者を含めて)にとって山田さんの言葉はかなりイタイです。

Michael Wesley

ちょっと遡りますが、2004年11月、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の新館が完成、お披露目となりましたね。

ご存知の方も多いかと思いますが、設計は日本人建築家、谷口吉生さん。

1935年に開館したMoMAは、フィリップ・ジョンソンさん(Philip Johnson)が1964年に東翼、シーザー・ペリさん(Cesar Pelli)が84年にガーデン翼を手がけています。

97年に行なわれた建築家10人によるコンペを谷口吉生さんが見事に勝ち取り、足掛け7年のロングプロジェクトになりました。

その長い建築のプロセスを克明に記録したドイツ人写真家、マイケル・ウェズレーさん(Michael Wesley)。

2001年8月、ウェズレーさんはMoMAの大がかりな建築&改築プロジェクトの光景を映し出すための場所を選び、MoMAの内部と周辺の数箇所に特殊設計のカメラを設置。

約3年後 (3秒でもなく、3週間でもなく、3ヶ月でもなく、3年ものあいだ!)に露出を終えた写真は、偶然がなし得る美しさに満ち満ちており、空間の濃淡を微妙な網目として描き出しています。

最後の頁のセントラルパークに降り注ぐ光の矢は圧巻です。

作品集『Open Shutter』には写真部門のアソシエイトキュレーターであるサラ・ハーマンソン・マイスターさん(Sarah Hermanson Meister)が構成した図解も収録されており、ウェズレーさんの作品と見事にシンクロしています。

必見!

Lee Friedlander

コンポラ写真の代表格、リー・フリードランダーさん(Lee Friedlander)の作品集『Self Portrait』から。

自身の「影」をセルフポートレートに見立てた写真。

お茶目なのか、真面目なのか、偶然なのか、狙ったのか…。

それにしても、上手すぎる。

ゾクッとくる「影」がページをめくるたびに次々と現れてきます。

気負わないスタイルは、真似しようとしても、フリードランダーさんのオリジナリティあふれる世界の牙城は崩せないでしょう。

一昨年、MoMA(ニューヨーク近代美術館)でも大回顧展が開かれたとの由。

ぜひとも、日本にも巡回してほしい作家さんです。