Pharoah Sanders

ジャズってムツカシイんですよね。何がムツカシイかっていうと、友人たちに「これ、いいよ」って気軽に薦めるジャンルではないっていうこと。「○○クンって、どんな音楽聴くの?」「やっぱりジャズかな…」「ふ〜ん」ってな感じで気まずい感じで終わってしまう女の子との寂しい会話。こっちでは「マイルスのモードっていうのはだな…」とウンチク爺が語り、あちらでは「やっぱりアンプは真空管がいいよね」みたいなオーディオ偏重派がいたり…。ジャズっていうだけで、本来の自由な音楽性を邪魔する「付属品」がまとわりついてきます。
加えて、フリージャズに代表されるグニャグニャで、「空気、読めよ」といった揶揄が飛んできそうな音源にぶちあたった日には目も当てられない、そんな光景が目に浮かびます。
あれやこれやで、内外野ともジャズをめぐる論議がかまびすしいところではありますが、そんな中でも「これ、いいよ」ってオススメできる音源をおひとつ。サックス奏者、ファラオ・サンダースさん(Pharoah Sanders)の『ラブ・イン・アス・オール(Love In Us All)』におさめられている『Love Is Everywhere』がそれ。ファラオさんは、フリージャズの旗手とあがめられている人ではありますが、この曲に限っては、ジャケットのアートワークに象徴されるように、わかりやすいつくりとなっていて、同アルバムのライナーノーツがその特長を的確に述べています(ちなみに、『Love Is Everywhere』では、ファラオさん、サックスだけでなくヴォーカルにもチャレンジしていて、その歌声から心底楽しんでいる雰囲気が伝わってきます)。

『セシル・マクビーのベース・ソロがテーマとなる短いフレーズをイントロで導き、シンプルなコード・パターンを描きながら続けて挿入されるノーマン・コナーズの細やかな手挽きのドラム・ワークやジョー・ボナーのピアノの音色が徐々に重ねられ高揚感を高めていく叙情的で美しい軌跡を描くナンバーである。プレイヤー全員が一体となってテンションを高めながら上り詰めていく様は感動的だ。溢れ出る感情を剥き出しにしたプレイヤー達が生み出す濃密なインタープレイに心奪われながら、我々リスナーは音の洪水を抜けたサンクチュアリーへと誘われる。(中略)エンディングまでの音旅行を楽しめる至福の時間だ。セシル・マクビーのベースを合図にリフレインを繰り返しながらエンディングへ、そして永遠に続く精神世界への旅立ちへと向かう。何度繰り返し聞いても目頭が熱くなる思いを抱く作品だ。』

『Love Is Everywhere』のテーマはベタですが、「愛(ラブ)」です。「愛の讃歌」といえば、亡き越路吹雪さん(古い?)を思い浮かべる方もいらっしゃるかと思いますが、ファラオさんの『Love Is Everywhere』は、ジャズ版「愛の讃歌」といえるでしょう。かのジョン・レノンさんが追い求めたピースフルな「ラブ」もステキですが、ファラオさんのスピリチュアルな「ラブ」も”愛のジャーニーズ・エンド”を見事に描き出しています。


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