Gennoshin Yasui

ブラジル・デザインの基本は「曲線」だ。
サローネでも注目、カンパナ兄弟に訊け。
元祖デザイン都市、ブラジリアの秘密。
世界を虜にする、ハワイアナスの表情。
サンパウロの壁を彩る、双子の正体は?
「黒人のローマ」に建ち並ぶ、ケーキな家。
ボサノヴァは、傑作デザインの宝庫だ。
ニーマイヤー×天童木工=大胆な家具。
ブラジルの広告は、ジョークが満載だ。
進化する、ブック・デザインに注目!
「手法がアート」な、ブラジルの写真家。
いまブラジル映画が、グッとくる理由。
「生活」から生まれた、楽器のかたち。

この特集に限らず、ブラジルの文化は、インディオと呼ばれる先住民やヨーロッパやアフリカ、アジアからの移民などが持ち込んだ様々な文化が織り成すモザイクだと評されることが多く、多彩な文化的なバックグラウンドを持つ国民を対象にした「広告表現」などでも近年では高い評価を受けていますね。

さて、不肖、私もご多分にもれず、多いにブラジル文化に傾倒しているひとりでありまして、テリー・ギリアム監督の『未来世紀ブラジル』にはじまり、偉大なるパーカッショニスト、ナナ・ヴァスコンセロスさん(Nana Vasconcelos)のつくりだす音にはおおいに触発され、建築家オスカー・ニーマイヤーさん(Oscar Niemeyer)の白いヴォリュームと自由な曲線はいつか訪れたい場所であります。

ずいぶんと前置きが長くなりました。ひとりの日本人アーティストのご紹介です。自身の「外伝」によれば、
幼少の頃、偶然FMよりエアチェック(←懐かしい響きですね・笑)したジョアン・ジルベルトさん(Joao Gilberto)とセルジオ・メンデスさん(Sergio Mendez)をテープが伸びるまで聴いてブラジル音楽の虜(とりこ)に。
その後、サンタナ(Santana)やウェザー・リポート(Weather Report)でパーカッションに目覚める。
小野リサさんの親父さんが経営する「サッシ・ペレレ」でブラジル人をつかまえて、パンデイロ(ブラジルの音楽を奏でるタンバリンのような楽器)を習得。
当時まだ高校生だった小野リサさん等と「サッシ・ペレレ」に出演(「8時だよ全員集合」にも出演経験あり)。
叩くことが止まらなくなり、ブラジルに1年留学。
ブラジル人(変態)作曲家エギベルト・ジスモンティさん(Egberto Gismonti)にどっぷりはまり、(変態)インスト評論家ともなる。
その後、幾度にわたるブラジルへの逃避行(?)を繰り返した後、満を持して初のソロアルバム『Oh! Bola!!』を発表(2007年春、このジャケットのアートワーク、秀逸です)。
『Oh! Bola!!』は、ポルトガル語から直訳すると「あっ、ボールだ!」の意味になりますが、日本語読みにすると「大ボラ」になると思えるのは、筆者の深読みか…。

というわけで、パーカッショニスト、コンポーザー、アレンジャー、エンジニア(ライヴの現場には自らの音響システムを必ず持ち込むコダワリ音楽人です)、そしてプロデューサーといった具合に、ブラジルの多面体そのものにさまざまな顔を持つ実力派ミュージシャン、GENNNOSHINさん(安井源之新)のご紹介と相成るわけであります。
カヴァー(ハービー・ハンコック!ミルトン・ナシメント!ジョン・コルトレーン!)からオリジナルまで、ブラジルの血を受け継ぎながらも、いい意味で「日本人的な」資質の確かさを確認できる好盤です。
こっそり、踊りたくなりますよ。
巷(ちまた)では、「マイクロポップ © 松井みどりさん」なる造語が徐々に浸透しつつありますが(といっても現代美術批評の領域ですが)、『Oh! Bola!!』は、「マイクロポップ」のブラジル音楽版という言い方もあながち間違ってはいないのではないかと(筆者見解)…。

マイクロポップとは:
「マイクロポップ」とは、歴史が相対化され、様々な価値のよりどころである精神的言説が権威を失っていく時代に、自らの経験のなかで拾い上げた知識の断片を組み合わせながら、新たな美意識や行動の規範をつくりだしていく、「小さな前衛」的姿勢です。
この姿勢は、人や情報や物がかつてないスピードと規模で世界中を動き、遠くの出来事が自分の生活のベーシックなところまで揺るがしかねないグローバル時代にあって、人それぞれが常に流動する状況に反応しながら自分自身の判断の基盤を作り、「生きている」という手ごたえを感じるための「小さなサバイバル」といった試みともいえるものです。


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