David Blue

今日はしんみりと。
たった40年の短い人生で、残したアルバムは3枚。夭折のシンガーソングライター、デヴィッド・ブルーさん(David Blue)。デヴィッド・ブルーというのは本名ではなく、綺麗な青い眼をしていたことからつけられたステージ・ネームです。戸籍上の名前は、スチュアート・デヴィッド・コーエン。
さまざまな事情があって、あまり幸福な幼少時代を送ることができなかった彼は、早くから生まれ故郷を離れ、行き着いた先が、ニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジ。
60年代初頭のグリニッチ・ヴィレッジといえば、フォーク・ムーヴメントが華開いていた場所。マクドゥーガル・ストリートにあった有名なフォーク・クラブ、ガスライト・カフェで職を得るが、しかし、シンガーとしてではなく皿洗い。下積みという言葉を絵に描いたような生活ぶりが思い浮かびます。
それでも、ガスライト・カフェの常連であったフィル・オクスさん(Phil Ochs)、エリック・アンダーソンさん(Eric Andersen)、さらには、ジョニ・ミッチェルさん(Joni Mitchell)、ボブ・ディランさん(Bob Dylan)等、当時すでにビッグ・ネームの仲間入りを果たしていたアーティストたちと徐々に親交を深め、ステージ・デビューのきっかけをつかむことになります。
とりわけ、ボブ・ディランさんからは強烈な影響を受け、髪型から服装、そして歌い方まで彼の姿を追いかけていたようです。くぐもったヴォーカル、無頼の徒を思わせるザラついた歌声がその事実を如実にあらわしています。
もうひとり、デヴィッド・ブルーさんに大きな影響を与えたひとりの女性がいます。ジョニ・ミッチェルさんです。彼女の最高傑作のひとつといわれているアルバム『ブルー』は、まさにグリニッチ時代の恋人、デヴィッド・ブルーさんに向けたデディケイティッド・ソングだったのです。
シンガーソングライターの魅力は、他の誰にも置き換えることのできない自分自身を歌い上げることなのだと思います。時にはそれは、赤裸々な告白になったり、デカダンスな様相を呈示してくることもあります。がしかし、それも作者自身なのです。ボブ・ディランさんとジョニ・ミッチェルさんというふたりの影を追いかけながら、ときには、その呪縛から逃れようとする相反する心の葛藤。いかにも人間くさい私小説のような世界がデヴィッド・ブルーさんの作品から聞こえてきます。
アンソニー・ハドソンさん(Anthony Hudson)によって描かれたモジリアニの絵画を思わせるジャケットのアートワーク。デヴィッド・ブルーさんは、誰にも置き換えることのできない、素晴らしい自画像を描き出したのです。
『ストーリーズ』。私にとって特別な一枚です。


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