Italo Calvino

戦後のイタリアを代表する作家、イタロ・カルヴィーノは私のお気に入りの作家のひとりである。
かつて私にとってマイナーな存在であった「イタリア文学」を身近なものにしてくれたのもまさに彼なのである。
いま読み進めているのは『パロマー』という作品。
パロマーは小説の中の主人公・語り手の名前でもある。
パロマー氏は「自分の大事な行動は事物を外から眺めることかもしれない」といつしか考えるようになった。
生活の中心をすべて「外から眺める」ことにすえた、徹頭徹尾、観察者として事物をとらえる一風変わった人物である。一体どうやって生計を立てているのか。
謎である。そんなパロマー氏の観察の対象はごくありふれた風景である。
浜辺であったり、家の中庭であったり、動物園であったり。章が進むにつれて、パロマー氏の思考は哲学的な深度を増してゆく。
それらは不毛な作業のように思われるが、様々な情報が忙しく目の前を通り過ぎてゆくだけの現代の状況に対するアンチテーゼのようでもある。
訳者である和田忠彦さんが解説でこう結んでいる。

『白紙(タブラ・ラサ)』のまま、目を凝らすこと、それがパロマー氏、そしてカルヴィーノが択んだ「世界を読む」方法なのだ。


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