Brigitte Fontaine

キャリア30年を超える女性ヴォーカリストを三人挙げるとすれば(あくまで私見ですが)、ブリジッド・フォンテーヌさん(Brigitte Fontaine)、エミルー・ハリスさん(Emmylou Harris)、エラ・フィッツジェラルドさん(Ella Fitzgerald、故人)といったあたりになるでしょうか。
彼女たちの声・ヴォイスを手繰り寄せてみると、そこには「華麗なる人生」と「傷だらけの人生」が同居しているアンビバレンツな情況が垣間見えてきます。
死(タナトス)は生(エロス)の暗示物であり、異常は正常の、よそ者は共同体の、敗走は勝利の、周縁は中心の、それぞれ本質を反映的に衝いているように、彼女たちは、「うた」という手法を用いながら、「負」や「闇」こそが「生」というストーリーの深部を暗示しているということをすでに達観しているようです。
先月、ブリジッド・フォンテーヌさんの新作『LIBIDO(リビドー)』がリリースされました。リビドーとは、ラテン語で「強い欲望」を意味する言葉ですが、狭義では「性的欲望」という意味でも使われる言葉です。つまりは、精神分析とか超自我とか肉欲とか、そういった領域に関連してくるキーワードなのです。
「生」であれ、「性」であれ、いずれは老いてゆくもの。それにあらがうか、流れにまかせるか、きっとそれは二者択一の事象ではなくて、どちらか一方にチューニングするものでもなく、「正」と「負」が両義牲のものに成り立っているものなのでしょう。
先に挙げた三人は、そういう意味で、ゴージャスでストイック、オプティミストでペシミスト、前衛的で退廃的、そんなところに私は惹かれるのです。


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